お正月にふと思い立ち、桜をこれまでと違った方法でと描き始めました。「春はあけぼの…」で始まる枕草子の一節が頭の中を何度も駆け巡るので、絵の中に仮名文字で書いてみました。さらに、絵の具をポタポタ落としたり、滴らせたり。桜がもっと美しく見える表現はないかと模索し、様々な実験を試みました。

やがて絵の具の小さな白いしぶきが、夜空に浮かぶ無数の星に見えてきて、花と星が降る春の夜をイメージしました。その後は、桜はいつものように極細筆で、花びら一枚一枚を描いていきました。

かな文字も絵の具のしぶきも徐々に背景へ溶け込んでいきましたが、複雑なニュアンスが絵肌に加わり、老木の枝垂れ桜の孤高の美をわずかながらでも表現できたのではないかと思います。