2021.11.20
アンティークのきものを着て
こんにちは、坂本澄子です。
朝晩寒くなってきましたね。
昨夜は部分月食(ほぼ皆既月食)でした。ご覧になりましたか?
このあたりは、日没後東の空が雲で覆われていたので、「今回も無理かな」と諦めかけていたのですが、17:30頃に三日月形に欠けた月が姿を見せてくれました。
丸い形がぼんやりと残っていますが、これは地球の影なんだそうですね。
さて、オンライン展示会#2『月の贈り物』から毎週1作品を取り上げ、制作エピソードをご紹介しています。
今週の一枚は2018年に描いた『同じ月を』です。
私は以前から大正、昭和初期の日本に憧れていて、谷崎潤一郎の小説に出てくる女性たちのきもの美しい描写にとても興味を持っていました。
「こっくりした紫地に、思ひ切つて大柄な籠目崩しのところどころに、萩と撫子と、白抜きの波の模様のあるもので、彼女の持つてゐる衣装の中でも、分けて人柄に嵌(はま)まつてゐるものであつたが、」(『細雪』より抜粋)
私自身も和服を着てみたいとずっと願っていたのですが、その度に「着ていくところもないし」という気持ちがいつもブレーキを。
そんな時に出会ったのがアンティークのきもの、いわゆる古着です。
秋の七草と大きな市松模様、全体的にグレイッシュな色使いにひとめぼれでした。
着付けをして下さったお着物の先生は、以前の持ち主について、こんなことを教えて下さいました。
「身長は150〜153cmくらい。身幅からも細身で小柄な女性だったと思われます。
襟のうっすらとした折じわから、気に入ってよく着られていた様子。夏の絽の着物ですから、お出かけ用だったのでしょう。
色味と柄が上品なので、おそらく庶民というよりは、良家の30代から50代の女性でしょうか」
着物ひとつ見ても色んなことがわかるのだと感心しつつ、そこからイメージを膨らませて、その女性を描いたのが、この『同じ月を』です。
当時この女性が見た月も、いま私が見ている月も「同じ月」という意味でこの題名をつけました。
そう考えると、たとえ会ったことがなくても、時を超えて繋がれるような気がしたのです。
聡明だったであろうこの人を思い、背景色に月明かりに透けるブルーを使いました。
絽は奇数の横糸と縦糸を絡ませることで定期的に隙間をつくる夏物の織り方です。
その涼しげなさらりとした手触りを表現したくて、生地の表面に細い線をいくつも入れました。
また、市松模様の縦のラインを背中の真ん中にあわせると、背筋がすっきりとして見えるそうで、穏やかな中にもどこか凛とした表情を出せたのではないかと思います。
ところで、この絵のモデルになったのは私なんですよ(笑)
身長161cmの私が着ると袖がちょっと短めではありますが、後ろ姿を写真に撮ってもらって描きました。
「きものを着ると、ちょっと世界が違って見えますよ」との先生の言葉通り、すっかり魔法にかかってしまったのでした。
残念なことに、去年も今年もこれを着て出かけられる機会はありませんでしたが、来年こそはまた袖を通し、昭和初期にタイムトリップしたいと思っています。
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