帰り道、岸壁沿いの小道を下りました。潮が引いて干潟が広がり、歩いて渡れそうなほど。
やがて満潮になれば、モン・サン・ミシェルは再び海に浮かぶ孤島へと姿を変えます。
大波を防ぐ高い石垣、その上をゆるやかに海へ向かう石畳の道。人の営みと大自然の雄大さがひとつに溶け合う光景に心を奪われました。

低く垂れ込めた雲と干潟となった大地は、境を失い、空と大地が一体となって広がっていくようでした。その中で、私もまた自然の一部なのだと感じた瞬間、絵の構図は心の中で決まっていました。

帰国後すぐには描けず、三ヶ月の時を経てようやく筆をとりました。
干潟の柔らかな光の移ろいと岩壁のざらりとした質感。その対比の中に、自然と人が共に生きる静かな調和を描きました。見る人にも、この石畳の道をゆっくり歩くような感覚を味わってもらえたらと思います。