2021.10.7
宝物の絵本から
こんにちは、坂本澄子です。
オンライン展示会#2『月の贈り物』はご覧いただけましたでしょうか。
月の光が描き出す11の風景をお届けしています。
制作年も10年間と幅がありますので、その時々の思い出を振り返りながら、毎週1点ずつ、ご紹介しています。
今週ご紹介するのは『扉の向こう〜月光』。
先週の第1作『扉の向こう』と同様に、装飾扉を境に別の世界が広がっていることを空想した作品です。
手前には壁に掛かったたくさんのお面に、優美な曲線を描いて伸びる熱帯睡蓮。
バリ島をイメージした熱帯の空間です。
210日ごとに降臨する神々をもてなすために、古来バリ島では奉納舞踊が盛んに行われています。
それが伝統芸能として確立し、現在では定番の演目から創作ものまで幅広いジャンルに及びます。
面をつけて舞う演目もあり、老若男女、神話に登場するユニークな動物たちなど、種類も様々な面はいずれも一個の木片から切り出され、丁寧に手彫りされています。
また、山川、草木など自然のそこかしこに精霊が宿ると考える土着の信仰も残っています。
例えば、民家の間を縫うように「精霊の通り道」と呼ばれる細い路地が作られていたり、朝と夕にチャナン(小さなお供え物)を家の周辺に置いて回るのもそのためなのだそうです。
扉の向こうには何を描こう…と考えたときに、同じように超自然的な存在である西洋の妖精が思い浮かびました。
妖精を描くのに参考にしたのが、”FLOWER FAIRIES“シリーズの夏編。
イギリスの絵本作家、シシリー・メアリー・バーカーの手による美しい妖精たちです。
この本は高校一年のとき、一学期の間だけクラスメートだったNさんから最後の日にもらったものです。
Nさんはお父さまの転勤でロンドンに住むことがきまっており、向こうの新学期が始まるまでの一学期間だけ、広島のおばあさまのところから高校に通っていたのでした。
どのページにも花の妖精たちが上品な筆使いで描かれており、育ちの良さを感じるNさん自身のように思えました。
あれから私自身も幾度となく引っ越しをしましたが、この本だけはなくすことはありませんでした。
いまもページを開くと、Nさんの穏やかな笑顔が鮮明に思い出されます。
『扉の向こう〜月光』に話を戻しますと、
扉の向こうは遠い北の国をイメージしましたが、私の描いた妖精はどことなく東洋の匂いのするものになりました。
月の光に透ける羽が自分でも気に入っています。
この絵はいまアトリエの壁に飾っています。
縦が約1.5mの大きな絵なので、ふとしたときに視界の端に入ると、その先に実際の風景が広がっているように思えるときがあります。
月と妖精が見せてくれるマジックかも知れませんね。
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