2022.1.22
橋の向こうへ続く不思議な世界
こんにちは、坂本澄子です。
先週、日比谷に映画『ドライブ・マイ・カー』を観に行ってきました。
村上春樹さんの原作は2014年の短編集『女のいない男たち』発刊当時に読んでいたのですが、映画化されていることはゴールデン・グローブ賞受賞のニュースが流れるまで知りませんでした。
私と同じ動機と思われる大人世代の観客で劇場はほぼ満席。
3時間の長い映画でしたが、最初の1時間でぐいぐい引き込まれ、それ以降は心の傷に向き合うというテーマをじっくり掘り下げ、エンドロールは爽やかな余韻に浸りました。
原作をもう一度読み返してから観に行ったのですが、主人公の個人的な悩みからもう一歩進めて、人が持つ普遍的な問題、悩みへと広げた素晴らしい作品だと思いました。
さて、今日は久し振りに新作をご紹介をします。
現在、ご注文制作の合間を縫って、次のオンライン展示会#3(4月開催予定)に向けて作品を書き溜めているところです。
実はこの『逢魔時』は年末に作品一覧のページにこっそり掲載していたのですが、これまでの私の作品とは少し傾向が異なるので、ご覧になった方はあれ?と思われたかも。
右の写真が昨年秋に実際に見た、この作品の元になった場所です。
江東区の中心部ですが、運河にかかったレトロな橋の向こうが深い森のように見えませんか。
夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わる時刻を魔物に遭遇するという意味で、昔から「逢魔時」と呼ぶそうです。
この時もまさにそんな黄昏時で、橋を渡ると妖怪たちの棲む魔界へ引き込まれそうな、怪しい雰囲気が漂っていました。
この風景を絵にしたいと思ったのは(いつもだったら思っていなかったかも)、そのつい10分前までで横尾忠則さんの『原郷から幻境へ、そして現況は?』展@東京都現代美術館を見ていたからなんです。
横尾さんの絵はポップアートから摩訶不思議な世界まで、幅広いジャンルの作品があり、600点が展示されたこの展覧会は、一度では全部見切れず、出直したほどです。
中でも私が気になったのが『Y字路』。行く手が二股に分かれた薄暗い路地。その先は漆黒の闇へと続く構図です。
横尾さんのご出身の兵庫県西脇市にはこのような漆黒の闇があったそうで、少年時代に通った模型店の跡地を見ているうちに着想したのが第1作。
そこから何作もシリーズ化されるうちに鮮やかな原色使いのものまで、様々なバリエーションが生まれました。
私の脳はしっかり侵食されてしまったようです(笑)
ちなみに西脇市観光協会のホームページにはモデルとなった実際の場所が紹介されています。
今年86歳になられる今も大作を中心に制作を続けておられ、腱鞘炎のため腕全体を使って筆を動かして描く姿にはじーんときました。
すごい、本当にすごいわ。
信号機はいつの間にか妖怪木に変わり、目の前をおどけた妖怪が走り抜けて行くように