2025.2.4
ギターを通した自画像
『響きあう音色』 2025/2月納品
<愛知県M.N.さまからのメッセージ>
子供たちが独り立ちし、仕事の上でもフリーのコンサルタントとして時間的な自由度が上がったので、後半生は若い頃から打ち込んできたクラシック・ギターに情熱を注ごうと思いました。
着るものや食べるものにはあまりこだわりのない私ですが、ギターはスペインの老舗工房フレタで作られた松材の楽器を長年愛用していました。
昨年新たに3本の楽器を入手し、その個性の違いに触れるうちに、自分自身の中にもこれまで気がつかなかった性質があることを発見。
楽器は弾き手に育てられてより良い音色を奏でると言われますが、弾き手もまた楽器によって成長させてもらっていると感じる毎日です。
そこで、そんな私の内面の変化をギターという視点から描いてほしいと依頼しました。
ある意味、今の私の自画像です。
難しい依頼だったと思いますが、完成した絵を受け取って素晴らしいと思いました。
早速、ピアノの上に以前描いてもらった絵と並べて飾っています。
部屋の印象がガラリと変わりました。すごくいいです。
この部屋でギターを弾くのがますます楽しみになりました。
<坂本澄子より>
初めてお話をお聞きした時、これは難題だと思いました(笑)
ご依頼主の思いや意志といった形のないものを絵で表現したことはこれまでもありましたが、「変化しつつある」内面とは一段も二段も難易度アップ。
まずは2時間くらいじっくりお話をお聞きして、最初にお出ししたイメージ画がこちらでした。
この時はまだフレタの松と杉の2本で、気難しくて繊細な松と骨太で温かみのある杉の音の違いを対比して描きました。
私にしてはかなり渋めの色使いですが、最初の印象はこんな感じでした。
それからまもなく、ドイツのオルディゲス、さらに、日本の名工・加納木魂(こだま)氏が長年手元から放さなかったといわれる幻の逸品が加わり、Nさんの心境もさらに変化。
12月にはギター4本を車に積んで東京まで来てくださり、それぞれの音の違いを実際に聴かせていただく機会に恵まれました。
オルディゲスの音の艶っぽさは男性3人に紅一点といった風情で、私の中で物語がどんどん膨らんで行きました。
そこで2回目のイメージ画は大きく変わり、こんな感じに。
この案で進めていくことになりました。
次は弾いているところを動画に撮って送ってもらい、手の動きをひたすらデッサン。
本画制作では、オルディゲスの香りたつような音色は花に喩え、繊細で端正なフレタの松は青、陽気で温かい杉は黄色、加納さんはものづくり日本の真面目な底堅さを大地の色で…といった感じで、色と形で表現して行きました。
4本の個性が重なりあうことから、題名は『響きあう音色』としました。
それはNさんの精神世界における異なる側面であり、互いに作用し合うことで起こる変化でもあります。
ここからさらに新境地を切り拓いていただければと願っています。
私自身もこの難しい課題にチャレンジさせていただいたことで、成長することができたのではないかと思います。
貴重な機会をありがとうございました。